吾輩は胡八である

猫、生活、カルチャー

短編|白い帽子を落としたその人は天使だった

床でくつろぐ白黒ハチワレの猫

道端で知らない人に
話しかけたことはあるだろうか

偶然起きたとある出来事で
少し気持ちが和らいだ

そんなお話

本編

最近体調を崩して通院している

治療院までは歩いて30分くらい

予約が13時だったので
12時20分くらいに家を出た

自宅から小道を通って大通りへ出る

人通りも多く
少しずつ以前の活気が戻りつつある

季節はもう冬だろうか
肌寒い

今日は一段と風が強い

冬の寒さを体が思い出す
そうだこんな感じだった

大通りをしばらく歩いた

20mくらい先からこちらへ歩いてくる女性
何か飲み物を口にしている

そう思った瞬間

上着のポケットから何か白い物体が落ちた

遠くてよくわからなかった
白いエコバックだろうか

さすがに20mの距離から
大声で何か落ちましたよ

とは言えない

とりあえず早歩きで近づいて
ちょうど目の前くらいの距離になった

その女性は髪を金に染めていて
イヤホンをしていた

あれ何か落としましたよ

と指差しながら話しかけた
しかしイヤホンをしているせいか

反応はない

前方の一点を見つめて
少しムスっとした表情をしていた

ここで引き下がるわけにもいかないので
再度声を掛けたら止まってくれた

それでもイヤホンはつけたままだった

知らない人に話しかけられたのだから
当然の対応だろう

止まってくれただけ有難い

指差した方向を見た女性は
不思議そうな表情を浮かべ

目はクエスチョンマークだった

すると咄嗟に上着のポケットに手を突っ込んだ

ようやく状況を理解した女性は
白い物体の方へダッシュした

それを拾ってまたダッシュで戻ってくる

近づいて来てやっとわかった

白い帽子だった

真横まで戻ってきた女性は
顔を赤らめながらとびきりの笑顔で

ありがとうございます

とお礼を伝えてくれた

こちらこそありがとうございます
そんな気持ちになった

一瞬の出来事だった

再び治療院へ歩を進めた

治療は1時間くらいで終わった
家へ帰るために来た道を戻る

ふとあの出来事を思い返した

上着のポケットに入れていた白い帽子

なぜだろう
考えを巡らせる

そうか今日は風が強いから
飛ばされないように外したのか

そんな正解のわからない謎の
答えを探していた

なんとなく温かい気持ちになった

冬は間違いなく近づいている

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